● 乳がん関連の報告・取材 --- 001 Dr.中村のNCCN報告

NCCNガイドライン改訂ミーティングに参加して

聖路加国際病院 乳腺外科部長 中村清吾

 

 NCCN乳がん診療ガイドラインの2005年第1版(2005.Ver.1)は、2005.1.1の年始と同時にインターネット上で公開された。その最大の変更点は、アロマターゼ阻害剤が閉経後乳癌における術後ホルモン療法として、正式にタモキシフェンに代わり標準治療となったことである。これは、前年暮れの12月のサンアントニオ乳癌シンポジウムの結果を反映したものである。しかし、本年5月にオーランドで開かれたASCO(米国臨床腫瘍学会)では、ハーセプチンの術後補助療法における再発予防効果が米国及びヨーロッパにおける大規模臨床試験の結果として報告された。この結果は、直ちに日常診療を変更すべきインパクトを有しており、NCCNは、学会終了後2週間以内に加盟しているがんセンター間での電話会議を行い、レベル1のカテゴリに入るべきものとのコンセンサスを得た。その結果を反映したVer2を、早くも5005.5.31にリリースしたのである。日進月歩の乳癌診療において、ガイドラインは常に最新のエビデンスを反映している必要があり、インターネットを始めとする通信技術を駆使したNCCNの組織運営には目を見張るものがある。

 さらに、2005年7月14日(木)、15日(金)には、2006年版を見据えたガイドラインの改訂ミーティングが、シカゴにて開催された。この会には、加盟がんセンターから代表メンバーが計22名参加し、NCCNの本部から5名、総計27名で、2日間に渡り熱い議論が繰り広げられた。なお、オブザーバとして、日本乳癌情報ネットワーク(JCCNB)より、中村清吾(聖路加国際病院)上野直人(MDアンダーソン癌センター)の2名が参加した。既に、各がんセンターからは、現行ガイドラインに関して、改訂要望事項が集められ、また、改訂の目玉となる項目に関しては、予めNCCN本部が作成したドラフトに基いて、議論が交わされた。前述の如く、術後補助療法に関してはホルモンの感受性があるか否かという要素に加えて、Her2が陽性か否かも大きく関わるため、枝分かれ図の大規模な変更を検討しているとの事である。将来的には、患者個々の再発リスクがどの程度で、各治療法を選択したときにどの程度の再発予防効果が得られるか明示した上で具体的な治療法を選択していくという、実際の診療パターンに合わせた形に整備していく方向性が示された。また、妊娠中の乳癌診療、Paget病などが、新たな項目として検討された。今後、テレカンファレンスなどを踏まえて、2006年版(2006.1.1刊行)として仕上げられていく予定とのことである。