乳がん関連の報告・取材 --- 002 Dr.濱岡のASCO取材ASCO 2006 速報 6月3日 6月4日 6月5日 6月6日現地取材:濱岡 剛(聖路加国際病院ブレストセンター) ■6月5日月曜日のAtlantaは快晴。太陽の下にいると汗がにじみます。しかし会場の中は体格のよい人でも快適に過ごせる寒さです。会場の隣にあるCNN(Cable news network)本社1階にあるcafeteriaでは、ASCOのバッジを首から下げている人が数多くみられました。
1.Plenary session● TamoxifenとRaloxifenの乳癌ハイリスク健常女性への予防効果(STAR: NSABP P-1 trial):The study of tamoxifen and raloxifen (STAR): Initial findings from the NSABP P-2 breast cancer prevention study. 乳癌発症がハイリスクである健常女性に対し、Tamoxifenが乳癌の発症率を下げることは、NSABP P-1試験によってすでに明らかにされている。今回の試験は、tamoxifenと同じSelective Estrogen Receptor Modulator(SERM)ではあるものの、骨粗鬆の治療薬として世界的に承認されているraloxifenとtamoxifenの乳癌発症抑制効果と安全性について比較したものである。19747人のハイリスク健常閉経後女性を無作為に割付け、それぞれを5年間服用したところ、両群で乳癌の発症は明らかに抑制され、両群間に有意差を認めなかった。しかし、非浸潤性乳管癌の発症抑制はtamoxifen群が優れていたが(ralxofen群との比較では、RR 1.40 p=0.052)、一方、raloxifen群では血栓症(RR 0.7 p=0.01)、子宮内膜癌(RR 0.62)、白内障(RR 0.79)などの副作用の発症頻度が少なかった。以上の結果より、raloxifenはtamoxifenと同等に乳癌発症ハイリスク閉経後女性に対し、浸潤性乳癌の発症を予防することが証明され、副作用も少ない傾向にあった。しかし、Tamoxifenが非浸潤性乳管癌の発症抑制に優れていることも考慮した上で、予防薬剤の選択を行う必要がある。(# 5 NSABP, Dr. Wickerham)
2. Oral presentation● NCIC CTG MA5における左心機能に対する影響の検討:Left ventricular function following adjuvant chemotherapy for breast cancer: The NCIC CTG MA5 experience. 710人のリンパ節転移陽性乳癌に対して術後薬物療法としてCEF(75po d1-14/60 d1,8/600 d1,8, q28d)とCMF(100po d1-14/40 d1,8/600 d1,8, q28d)の6サイクルを比較したMA5試験において、左心駆出率(EF)に対する影響が比較された。治療開始6, 12, 36, 60ヶ月のすべての時点で、CMFに比較しAnthracyclineの含まれているCEF群でのEFの低下が大きかった。しかしEpirubicinを720mg/m2投与されている群のなかで10%以上のEF低下を認めた症例が25%以下であったことを考慮すると、anthracycline投与群も含めて全体的にこれらの変化は許容範囲内であると判断された。(# 522 NCIC CTG MA5, Dr. Shepherd) ● NCCTG N9831 Adjuvant Trastuzumab trialにおける局所放射線同時照射の安全性Adjuvant radiotherapy (RT) and trastuzumab in stage I-IIA breast cancer: Toxicity data from North Central Cancer Treatment Group Phase III trial N9831. 3505人の乳癌患者を対象にAC-T(Paclitaxel)、AC-T-H(Trastuzumab)、AC-TH-Hの3群で比較するN9831試験にて心毒性の検討(cardiac eventの比較)がなされた結果、Trastuzumabと局所放射線照射を併用しても心機能の低下は認められず、安全に投与可能であったことが報告された。(# 523 NCCTG, Dr. Halyard) ● AIとSERM併用の試み:Phase 3 study of atamestane + tremifene vs. letrozole in advanced breast cancer. ATACでは、TamoxifenとAnastrozoleを併用すると、それぞれの単独投与にも劣るという結果がある。しかし、新規アロマターゼ阻害剤であるAtamestane とTremifeneの併用においては基礎実験で、ATAC結果の理由であると言われる薬理学的相殺作用が認められないとされ、完全なエストロゲンブロックへ向けて、865人の閉経後ホルモン受容体陽性乳癌再発患者に対して無作為割付で Letrozole単独と比較した。結果はTTP, OR, OSに明らかな差を認めなかったが、Dr. Goss は将来的にFluvestrantとAIの併用に対する可能性を述べていた。(# 525 Massachusetts General Hospital, Dr. Goss) ● IES (Intergroup Exemestane Study)のsurvival 報告:First mature survival analysis of the Intergroup Exemestane Study: A randomized trial in disease-free, postmenopausal patients with early breast cancer randomized to continue tamoxifen or switch to exemestane following an initial 2-3 years of adjuvant tamoxifen. ホルモン受容体陽性閉経後乳癌の術後薬物治療として、本来5年服用していたTamoxifenから、2から3年Tamoxifenを服用した後に残りの2−3年をExemestaneにスイッチする方法が統計学的に有意に無病再発期間を下げることがすでにこの試験で示されている。今回4724人の閉経後の患者群に対して引き続き検討がなされ、前回同様、無病再発率についてはITT解析およびER+/unknown群においてスイッチ群が明らかに低く(ITT: HR 0.76, p=0.0001 3 yrs, ER+/unknown: HR 0.75, p=0.0001 3 yrs)、生存率においても、ER+/unknown群でスイッチ群に明らかなadvantageを認めた(HR 0.83, p=0.05, 3 yrs)ことが報告された。(# 527 IES Dr. Coombes) 3. General Poster Session● Celecoxibによる乳癌発症予防の可能性についての検討:Phase II trial breast cancer chemoprevention study with Celecoxib in women at increased risk for breast cancer. 49人の乳癌発症ハイリスクの健常女性に対して、細胞アポトーシスを誘導する薬剤であるCelecoxib内服を6ヶ月行うことによって、内服していない群に比較して乳管洗浄細胞診もしくは乳管分泌物のER発現強度が明らかに抑制(pre 35.7%, post 27.4%)されていることが確認された。しかし、増殖の指標であるKi67 に関しては変化を認めなかった。(#1010 MD Anderson Cancer Center, Dr. Arun)
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