● 乳がん関連の報告・取材 --- 003 Dr.竹井のミラノ報告第8回ミラノブレストカンファレンスに参加して聖路加国際病院 乳腺外科 竹井淳子
2006年7月21日〜23日にイタリア、ミラノで開催された、8th Milan Breast Conference(第8回ミラノブレストカンファレンス)に参加しました。 European Institute of Oncology(EIO)を代表する、ベロネージ先生:乳腺外科医(Umberto Veronesi M.D.)とゴールドヒルシュ先生:腫瘍内科医(Aaron Goldhirsch M.D.)のお二人が主任座長でした。ベロネージ先生は、現役で手術を行っており、厚生大臣のご経験もあるため、イタリア国内の医療問題のコメンテーターとして必ず欠かせない人物です。一般市民で知らない人はいないとのことでした。日本の日野原先生のような存在でしょうか。また、講演者の中には、今年10月15日に国際シンポジウムに参加いただくページ先生:病理医(David L. Page M.D.)もおられ、他にも多数の著名な先生がたが来伊されておりました。
今回のテーマは、Innovation in Care and Research(治療と研究の改革)でした。 カンファレンスの内容の他に、EIOの病院見学もあわせ
【 I 】乳房温存術に対する術中放射線治療乳房温存術後に局所再発を抑えるため、術後放射線治療を行うのが世界の通例です。当院でも同様に、6週間から7週間、土日を除く連日通院していただかなくてはいけないため、仕事を持っていたり、子供が小さかったりすると調整が難しく、ご負担になっている事は間違いありません。この、術後に行っている放射線治療を、術中に行い、通院を不要とする術中照射法について、2つの試験が報告されました。いずれもまだ試験継続中であり、長期結果が待たれるところです。 【 I −1】:ELIOT(Full-dose intraoperative radiotherapy with electrons) 1999年から治験開始 EIOを中心に現在も継続中 現段階での報告:中間解析 平均27.3ヶ月 コメント:実際の手術を見学して、時間的には通常の手術より+30分ほど、(照射は5分ほどで、前準備に時間がかかる)外科医としては手術の手間が増えますが、術後に6週間の連日通院がいらないのではあれば、患者の負担は精神的・体力的・金銭的に軽減することと思います。 また、乳頭を残して、乳腺のみ全摘出術(乳頭乳輪温存乳腺全摘術)を行った場合に、残した乳頭に再発しないよう、術中照射の適応拡大も試験中です。
【 I −2】:Targit(Targeted Intra-operative Radiotherapy)2000年から治験開始(2009年までに、2200人登録を目標に継続中) 参加国:イタリア ドイツ アメリカ イギリスなど 対象:45歳以上 乳房温存術施行の患者に対して 1)従来の術後6週間放射線治療群 2012年に結果報告される予定
【 II 】MINDACT trial (Microarray In Node negative Disease may Avoid Chemo Therapy)前向き無作為比較試験。70-遺伝子のmicroarreyと病理組織学的診断から、腋窩リンパ節転移のない乳癌患者さんにおける術後化学療法の必要性の基準を設定するのが目的。 EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer:欧州がん研究治療機構)が施行。(EORTC Protocol 10041――BIG 3-04) 対象:リンパ節転移のない初期乳癌患者 6000人 ☆ a)b)共にhigh risk ==⇒化学療法の無作為比較試験へ(3300人) ☆ a)b)共にlow risk ==⇒ ホルモン療法の無作為比較試験へ(780人) ☆ a)b)のリスクが不一致〈〈〈たとえばa)high b)low riskなど
【 III 】European Institute of Oncology(EIO)見学病院は、ミラノ市街地からトラム(路面電車)24番で終点まで30分、そこから222番のバスに乗り換えて10分の郊外にあります。周囲はのどかな雰囲気の場所です。
以前当院の乳腺外科で働いていた榎戸先生が、このEIOで修行中であり、病院を案内してもらいました。 昨年の乳癌手術件数はなんと、3345件!!! 手術は朝8時から20時まで、手術が終わって次の患者が入室するまで15分です。掃除に手間がかからないように、術中床を汚さないように気を配っているとのことでした。 先にも述べた、ELIOT術中放射線治療を実際に見学できましたが、1999年からEIOでは施行されている手技です。肺に放射線の合併症が起こらないように、遮蔽のディスクを乳腺と筋肉の間に留置して、放射線を当てます。この方法は、術後通院の時間とそれに伴うお金が軽減されるというメリットのほかに、皮膚には放射線が照射されないため、皮膚の問題のために照射できなかった患者にも適応拡大が望めるとの事でした。 ベロネージ先生の手術も見学することができ、日本ではおそらくまだ積極的におこなわれていない手技と思われるR.O.L.L.(radioguided occult lesion localization)を施行されました。非触知病変の場合、手術部位を同定するために、フックワイヤーといって針に糸がついているものを術前に乳房内に目印に入れます。手術時その糸をたぐり、目印の針周囲の乳腺を切除してくるといったことが通常行われます。このフックワイヤーの代わりに、同位元素(日本ではセンチネルリンパ節生検の際に用いられています)を目印として乳房腫瘍部位に注射し、その薬剤を測定出来る機械を用いて切除範囲を見つけるといった手技です。 乳癌に対する意識も高まり、検診率も増えれば、おのずと初期乳癌、非触知乳癌の数も増えていくと予想され、日本でもこの手技が広まるかもしれません。 これだけの規模の手術、治療をミスなく運営しているシステムに大変興味がありましたが、1日半の病院見学では、外来と手術の一部を見学するだけで精一杯でした。どのようなチーム医療を行っているのか、是非また勉強する機会を心待ちにしています。
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