乳がん関連の報告・取材--- 005 Dr.山内の米国取材 

The First International Inflammatory Breast Cancer Conference

現地取材:山内 英子

 

炎症性乳癌の最初の国際会議

炎症性乳癌の最初の国際会議が12月5、6、7日、アメリカ、テキサス州ヒューストンにて開催された。世界中から、炎症性乳癌の臨床研究をテーマとする医師、研究者のみならず、自身が炎症性乳癌の経験者であったり、家族を炎症性乳癌で失った患者擁護団体の方々も集まり、この診断が難しいにも関わらず、予後不良の炎症性乳癌という病態に対して、積極的に意見の交換がなされた。

 炎症性乳癌の最初の国際会議

第一回目の今回は、2006年に炎症性乳癌の専門外来 the Morgan Welch Inflammatory Breast Cancer Research Program and ClinicをThe University of Texas M.D,Anderson Cancer Centerに開設して以来、年間200例近い新たに炎症性乳癌と診断された患者を治療してきている当クリニックのDirectorであるDr.Massimo CristofanilliとDr.Thomas Buchholzのリードの元におこなわれた。

 

 

11カ国の代表が集まり

the new IBC International Consortium 結成 12月5日の午後には、会議に先立って、オーストラリア、ベルギー、エジプト、フランス、イタリア、日本、スペイン、チュニジア、アラブ共和国、イギリス、アメリカの世界11カ国の代表が集まり, the new IBC International Consortium が結成された。この稀でありながら、治療に難渋し、予後不良な炎症性乳癌に対 し国際協力を宣言し、今後、世界中から集めた臨床例や、組織検体、血清検体などのデータバンクを築き、研究協力することによって炎症性乳癌の病態解明に力を注ぐことを誓い合った。

 

世界中の炎症性乳癌の専門家が発表を行い意見を交換

12月6日、7日午前中と1日半にわたる会議では、世界中の炎症性乳癌の専門家がそれぞれの分野にわたり発表を行い意見の交換を行った。発表は疫学的なものから臨床応用可能と思われる分子標的薬剤等のpreclinical dataなど多岐にわたり、それぞれの分野のエキスパートによるもので、一人一人の炎症性乳癌治癒に対する情熱が伺われた。

疫学的データでは、世界各国のデータが発表された。日本での結果と同様に、世界各国のデータでも炎症性乳癌の診断基準がまだ統一されていないことが明らかになった。病理学的診断(乳房皮膚リンパ管の腫瘍塞栓)は絶対条件ではなく、あくまでも臨床診断であるという見解はあるものの、乳房の発赤、浮腫という臨床所見がどの程度の範囲で(乳房の三分の一以上、あるいは乳房全体?)認められた場合と規約するべきか、また臨床所見の期間(急速に認められた、3ヶ月以内)をどのように扱うべきか、未だに局所進行性乳癌を炎症性乳癌としてしまう可能性などが示唆された。第一回炎症性乳癌会議重要な課題として、まず炎症性乳癌の診断基準の分かりやすい統一あるいはどの程度の所見を呈したものを候補として集めていくかなどが、今後世界的規模でのデータ収集協力を行っていく上でも必須のものとされた。

分子標的薬剤の候補の一つとして、M. D. Andersonの上野直人先生率いる研究室からはEGFRを標的とした薬剤の可能性が発表された。EGFRは炎症性乳癌の約30%で過剰発現しており、予後や再発と関連する。炎症性乳癌の細胞や動物モデルにおいて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるerotinib の抗腫瘍、抗遠隔転移効果が示され、今後の発展に期待するところである。

一つのセッションが始まるごとに、炎症性乳癌体験者が患者の立場を代表しての意見発表が行われた。自身が炎症性乳癌と診断され、病を克服し生存している経験を生かして、患者団体主導の炎症性乳癌のデータベースを立ち上げている元看護師の女性、娘さんを炎症性乳癌でなくした苦い経験から患者団体を立ち上げ、多くの女性のみならず、医療従事者にも診断のつきにくい炎症性乳癌の存在を啓蒙し続けている女性など多くの情熱を持った人々の話を聞き、また直接いろいろ話し聞かせていただく機会を与えられ、医師として、これから炎症性乳癌の診療、研究に対する思いを強くさせられたのは私だけではないと思う。

第一回でありながら、共通の目的と熱意を持った人々の集まりは、以前からともに戦ってきた同士のようにすぐに意見の交換や、これからの協力をもたらすことができ、今後、この繋がりによって炎症性乳癌と更なる力を持って闘っていくことができると思う。来年はヨーロッパのどこかでまた皆で集い、情報交換とともに炎症性乳癌に対する“士気“を奮い立たせることを約束した。

 

世界中の炎症性乳癌の専門家が発表を行い意見を交換