「がんとともに生きる」〜日々是好日〜 People Living with Cancer

     
  ASCO(American Society of Clinical Oncology:米国臨床腫瘍学会)では、がん患者およびその家族が癌を克服し、健やかに生きることを支援するために、まず自らの病気について、よりよく理解するための情報をインターネットで公開しています。本NPO法人では、ASCOより翻訳に関する許可をいただき、ここに紹介するものです。
     
概要   アジュバント療法
統計   放射線療法
リスクファクター(危険因子)   化学療法
予防   ホルモン療法
スクリーニングガイドライン   再発乳癌
症状   医師に尋ねるべきこと
診断   最新の研究
病期診断   患者向け情報源
治療   臨床試験の情報源
手術    

 

 

 

概要

米国では、乳癌は女性で発生数が最も多い癌で(皮膚癌を除く)、女性の癌による死亡の原因としては肺癌に次いで第二位となっています。男性も乳癌を発症することがありますが、男性の乳癌は珍しく、乳癌の全症例の1%未満に過ぎません。

病気の進行が初期の段階との診断を受けた場合の乳癌の治癒率については心強い結果が出ており、限局性乳癌と診断された女性の場合の5年生存率(癌が発見されてから5年以上生存する女性の割合。他の病気が原因による死亡は除きます)は97%近くに及んでいます。さらに進行した段階で癌が発見された場合でも、新しい治療法のお陰で多くの乳癌患者が診断前と同様の生活を楽しむことができます。

乳房はほとんどが脂肪組織です。この脂肪組織の中に腺葉のネットワークがあり、この腺葉は乳腺を含む小葉と呼ばれる小さな管状構造物でできています。小さな腺管(乳管)が腺、小葉、そして腺葉につながり、腺葉から乳輪(乳首を取り囲む黒っぽい部分)の中心にある乳頭へと乳汁を運びます。乳房全体に血管とリンパ管が分布しています。血液は細胞に栄養を供給し、リンパ系は体内の老廃物を排出します。リンパ管はリンパ節へとつながります。

全乳癌の約90%が乳管または腺葉から発生します。全乳癌のほぼ75%は乳管を裏打ちする細胞に始まり、これは乳管癌と呼ばれます。小葉に始まる癌は小葉癌と呼ばれます。小葉癌は、同時に、あるいは将来的に対側(もう一方)の乳房にも発生する可能性が高くなります。

癌が乳管や小葉から周辺組織に広がっている場合、それは侵襲性または浸潤性の乳管癌または小葉癌と呼ばれます。広がっていない癌はラテン語で「その部位で」という意味のin situと呼ばれます(非浸潤癌)。in situ癌(非浸潤癌)の経過と治療は、それが非浸潤性乳管癌(DCIS;腺管内上皮内癌)であるか、あるいは非浸潤性小葉癌(LCIS;上皮内小葉癌)であるかによって異なります。

現在、臨床腫瘍医は、癌が乳房や体の他の部位に広がるのを防ぐために、非浸潤性乳癌の大多数を占めるDCISは手術で切除するよう勧めています。DCISには手術に加えて放射線療法やホルモン療法が勧められる場合もあります。LCISは通常、手術かホルモン療法のどちらかで治療されます。

これ以外の比較的頻度の少ない乳癌には、髄様癌、粘液癌、管状癌、乳頭癌があります。炎症性乳癌は、全乳癌の約5%を占める急速進行型の癌です。この癌では乳房が腫脹したり乳房の皮膚に発赤が生じたりすることが多いため、乳房の感染と誤診される場合があります。パジェット(ページェット)病は、乳頭の乳管から始まると考えられている非浸潤癌の一種です。

乳癌細胞は、血管やリンパ管を通って移動し、体の他の部位に広がることがあります。リンパ節は、腕の下(腋窩)、首(頸部)、鎖骨のすぐ上(鎖骨上)にあります。最も一般的な遠隔転位部位は、骨、肺、肝臓です。局所胸部の皮膚や胸壁に癌が局所再発することもあります。

癌は、遺伝子的に異常な1つの細胞から始まります。この1つの細胞が分裂して最終的に腫瘍(細胞の塊)となり、その継続的な成長に必要な栄養を得るための血液供給を発生させます。ある時点で、細胞が原発腫瘤から離れ、血流または近くのリンパ系を通って体の別の部分に移動することがあり、この過程を転移と呼びます。

転移が起こる前に診断、そして治療される場合もありますが、診断の時点ですでに転移が起こっている乳癌もあります。一般に、腫瘍が大きくなるにつれて転移の危険性が大きくなります。研究によると診断時に乳癌が直径1 cm未満の女性の場合、その時点で転移を起こしているケースは10%未満である、と推定されています。直径が5 cmを超えてから癌と診断された場合には、この数字は80%と大きくなります。

 

 

 

統計

米国では、2004年に乳癌と診断される女性は217,440人と推定され、そのうち40,580人が死亡、男性では、1,450人が乳癌と診断されると推定されています。

癌が乳房に限局している場合、5年生存率(癌が発見されてから5年以上生存する女性の割合。他の病気が原因による死亡を除く)は97%近くになります。癌が領域リンパ節に広がっている場合の5年生存率は79%で、遠隔臓器に広がっている場合には23%となります。

これらはあくまで平均値であり、個人のリスクは腫瘍の大きさや癌が波及しているリンパ節の数など、多くの因子によって異なります。リンパ節が陰性で腫瘍が小さいほど生存率は高く、再発リスクは低くなります。再発率は、腫瘍が大きいほど、また陽性リンパ節の数が多いほど高くなります。

1990年から2000年の間に、乳癌で死亡する女性の数は毎年2%ずつ低下しました。現在、米国では200万人余りの女性が乳癌と診断され、治療を受けています。

癌の統計値の解釈は、慎重に行なう必要があります。こうした推計値は、米国における毎年の何千例という乳癌症例データに基づいたものですが、特定の個人の実際のリスクはそれぞれ異なります。乳癌患者に余命を告げることは不可能と言えます。生存に関する統計値は5年(時には1年)間隔で測定されるため、治療法や診断法の進歩が反映されていない可能性があります。

なお、上記の統計値は米国癌協会の出版物「Cancer Facts & Figures 2004(癌の事実と数字2004年版)」によるものです。

 

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リスクファクター(危険因子)

リスクファクターとは、人が病気(癌を含む)を発症する危険性を増大させるものすべてを指します。喫煙のように抑制可能なリスクファクターもあれば、家族歴のように抑制不可能なものもあります。リスクファクターは病気に影響を与える可能性はありますが、必ずしも癌の原因になるものではありません。いくつかのリスクファクターが存在するのに病気にならない人もいれば、明白なリスクファクターが存在しないのに病気になる人もいます。自分のリスクファクターを知り、医師と連絡を取り合うことにより、ライフスタイルと健康管理法を賢く選択することができます。

乳癌の多くは、明白なリスクファクターのない女性に発生します。これは、すべての女性は自分の乳房の変化に敏感になって、自分で乳房を検査し、定期的に乳房の診察とマンモグラフィを受ける必要があることを意味しています。乳癌の発症には複数のリスクファクターが影響しているようです。以下のような因子は、乳癌発症のリスクを高めると考えられます。

【年齢】乳癌発症のリスクは女性の加齢に伴って高くなり、乳癌の大多数は50歳以上の女性に発生しています。

【人種】乳癌を発症しやすいのは白人女性ですが、乳癌で死亡する可能性が高いのは黒人女性です。その理由はわかっていませんが、おそらく社会経済的因子と生物学的因子の両方が関係していると考えられます。

【乳癌の病歴】片方の乳房に乳癌を発症した女性は、反対の乳房にも乳癌を起こすリスクが3〜4倍高くなります。

【卵巣癌の病歴】卵巣癌もホルモン曝露と関係があるため、卵巣癌の病歴がある場合、乳癌のリスクが高まると考えられています。BRCA1またはBRCA2遺伝子のいくつかの突然変異は、卵巣癌と乳癌のリスクを共に高める可能性があります。

【乳癌の家族歴】一等親血縁者(母親、姉妹、娘)に乳癌を診断された人がいる女性はリスクが高くなります。複数の一等親血縁者が乳癌を発症していて、特に閉経前に発症している場合にはリスクが高まります。

【遺伝的素因】 BRCA1またはBRCA2遺伝子の突然変異は乳癌のリスクに関連しています。これら遺伝子の既知の突然変異を調べるための血液検査がありますが、これは誰にでも勧められるものではなく、必ず適切な遺伝カウンセリングを受けなければなりません。研究者は、これらの遺伝子が原因で生じた乳癌は乳癌の総症例の2〜3%に過ぎないと推定しています。詳しくは乳癌の遺伝学を参照してください。

【エストロゲン曝露】エストロゲンは第二次性徴(乳房の発達など)を制御する女性ホルモンです。女性のエストロゲン産生は閉経とともに減少します。医師は、長期間にわたるエストロゲンへの曝露が乳癌のリスクを高めると考えています。 初潮が12歳以前または閉経が55歳以後の女性は、乳腺細胞が長期間にわたってエストロゲンに曝されるため、乳癌のリスクが高くなります。 初めての妊娠が30歳以降の女性または満期妊娠を経験していない女性は乳癌のリスクが高くなります。妊娠は乳腺細胞を最終成熟段階へと押し進めるため、乳癌予防になると考えられています。 経口避妊薬(避妊ピル)の使用は女性の乳癌リスクをわずかに高めると考えられますが、経口避妊薬の服用を止めると10年でそのリスクは消失します。 最近(過去5年以内)および長期間(数年間以上)のホルモン補充療法(HRT)は女性の乳癌リスクを高めると考えられています。

【乳腺の異型過形成】この病態は、異常ではありますが癌ではない細胞が乳腺生検で発見されることを特徴とします。異型過形成は乳癌のリスクファクターです。

【非浸潤性小葉癌(LCIS)】この病態は、乳房の小葉すなわち腺に認められる異常細胞を指します。LCISは浸潤性乳癌(周辺組織に広がる癌)の発症リスクを高めます。

【ライフスタイル因子】他のタイプの癌と同様、様々な生活習慣が乳癌発症を助長することが研究によって日に日に明らかになっています。 肥満:最近の研究により、肥満または太り気味であるだけでも女性の乳癌リスクが高まることが示されています。 運動不足:運動はホルモン濃度を低下させ、免疫系を活性化します。また運動不足は肥満の原因にもなります。 飲酒:1日1杯を超える飲酒は乳癌のリスクを高める可能性があります。

【放射線照射】高線量の放射線照射は女性の乳癌リスクを高めます。原子爆弾の長期生存者、胸部への放射線治療を受けているリンパ腫患者、結核症や脊椎の非悪性病態のために繰り返しX線検査を受けた人、および幼少時に放射線照射で白癬を治療した場合、乳癌のリスクが高くなることが認められています。

 

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予防

現時点では、効果が証明されている乳癌予防法は存在しません。女性が乳癌を克服しうるチャンスを最大限に高めてくれるのは、定期的な乳房の自己検査、診察、そしてマンモグラフィによる早期発見です。癌が早期に発見されることで、治療が成功する可能性が高くなります。

乳癌の女性の家族歴が顕著である場合予防的乳房切除術(乳腺組織を切除する手術)を検討する場合があります。これは乳癌発症リスクを95%以上低下させると考えられています。

乳癌発症リスクが通常よりも高い女性では、化学的予防(乳癌のリスクを低下させる薬物の使用)を検討する場合があります。大規模臨床試験の結果により、タモキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)が女性の乳癌発症リスクを低減できることが明らかになっています。

さらに、タモキシフェンは乳癌治療を受けたことがある女性の癌再発のリスクも低下させることができます。エストロゲンと同様、これらタモキシフェンなどの薬物は閉経後の女性の骨密度を増加させ、循環器系を保護します。ただし、エストロゲンと違ってSERMは乳腺細胞が癌細胞へ進行することを促進しません。

1999年5月、タモキシフェンとラロキシフェンの試験(STAR)という乳癌予防試験が開始されました。STAR試験では、乳癌発症リスクの高い35歳以上の閉経後の女性で、タモキシフェンとラロキシフェンという2つの薬剤の乳癌発症リスク低減効果を比較することが意図されています。この試験は国立癌研究所(NCI)National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)が実施しています。

 

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スクリーニングガイドライン

現在、多くの保健機関が、20歳になった女性に対して、今後3年に一度の割合で医師による乳房の診察を受けることを勧め、毎月、乳房自己検査を行うよう、呼びかけています。乳房の自己検査は毎月同じ時期、できれば月経期の終わりに行うのが良いでしょう。また、40歳になった女性に対しては、毎年の乳房診察とマンモグラフィ、毎月の乳房自己検査を継続して行うことを勧めています。女性はスクリーニングの頻度について医師と相談すると良いでしょう。基準にするマンモグラフィは35歳で撮影されることが多いようです。

スクリーニングマンモグラフィ(小さすぎて触知できない腫瘍を発見できる乳房X線検査)の有用性をめぐって論争が生まれています。大規模な国際的臨床試験では、50歳以下および50歳以上の女性のいずれにおいてもマンモグラフィの有効性についての結果はさまざまです。マンモグラフィの批判者は、これらの試験でマンモグラフィが救命につながることは証明されておらず、むしろ女性に不必要な治療を受けさせることになりかねない、と主張しています。ただし、これらの試験は統計学的平均値に基づいたもので、各個人にそのまま当てはまるものではありません。

それでも、マンモグラフィは乳癌のスクリーニングを行うには最良のツールです。小さすぎて触知できない腫瘍をマンモグラフィで発見できるという事実には議論の余地がありません。できる限り早期に乳癌を発見できれば、より多くの治療選択肢を得ることができ、癌が身体の他の部分に広がるリスクを低減できます。すべての女性が医師とマンモグラフィに関して話し合い、適切なスクリーニング計画を立てる必要があります。実際、マンモグラフィによる癌の早期発見によって、現在も生存しているという女性が大勢います。

ただし、マンモグラフィでも癌が見逃されることがあります。超音波検査や磁気共鳴画像法(MRI)などの他の乳房画像診断法は、通常、スクリーニングを目的に用いられる検査ではありません。。しかしながら、おそらくこれらの診断法は、乳癌のリスクが高い女性、BRCA突然変異のある女性、あるいは身体検査で疑いのある所見が認められた女性の評価には役立つ可能性があります。身体検査で疑いのある所見が認められた場合は、たとえマンモグラフィで正常と判定されていても、さらに詳しい評価が必要です。

 

 

 

症状

乳癌の女性は、以下のような症状や症状を経験します。ただし、時には乳癌の女性でもこれらの症状をまったく示さないこともあります。また、他の病気の症状と類似している場合もあります。ここに挙げた症状について気になる点があるときは医師に相談してください。

乳癌の多くは何の症状も示さずに発症します。症状が現れる前にマンモグラフィで発見される腫瘍もあります。乳房の変化を少しでも早く発見できるよう、すべての女性が自分の乳房の外観、感触、形、質感をよく知っておく必要があります。

乳房や脇の下に新しくできたしこり(正常でも多くの女性の乳房にしこりがあります)や肥厚 乳首の圧痛、排出液、あるいは物理的変化(落ち窪んだ乳首や治らないただれなど) 皮膚の刺激感や、しわ、窪み、かさつき、ひきつれなどの変化 オレンジの皮のようなブツブツ(橙皮状皮膚)を伴った乳房の熱感、発赤、腫れ 乳房の痛み(通常は乳癌の症状ではありませんが、医師に報告する必要があります)

 

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診断

医師は、癌を診断し、転移(がんの広がり)の有無を調べるために多くの検査をします。どの治療法が最も効果的かを判定できる検査もあります。ほとんどの癌において、生検が癌の確定診断を下す唯一の方法です。生検を行うことができない時は、医師が診断に役立つ他の検査を提案します。画像診断検査は、癌が転移しているかどうかを調べるために行われます。医師は診断検査を選択するにあたって次のような因子を考慮します。

年齢と医学的状態
癌のタイプ
症状の程度
以前の検査結果

通常、乳癌の診断は、マンモグラフィ、臨床検査、あるいは自己検査によって、本人または医師が乳房にしこりを発見した時点で始まります。乳癌の診断を確定するために数種の検査が行われます。

以下は乳癌の診断に利用される可能性のある検査です。

画像診断法
【診断的マンモグラフィ】診断的マンモグラフィは、撮影する乳房の像(写真)が多い点以外はスクリーニングマンモグラフィと同じです。

【超音波検査】超音波検査は、高周波数の音波を利用して乳房組織の画像を作り出します。超音波検査では、癌の場合がある固体の腫瘤と、癌ではないことが多い液体が詰まった嚢胞とを区別できます。
【磁気共鳴画像法(MRI)】MRIは、X線ではなく磁場を利用して身体の詳しい画像を作り出します。

外科的診断
【生検】 生検では、顕微鏡検査のために少量の組織を切除します。他の検査は癌の存在を示唆できますが、確定診断を下すことができるのは生検だけです。生検の種類は様々です。
穿刺吸引細胞診では、細い針を使用して液体や細胞を吸い取ります。
ステレオガイド下穿刺吸引細胞診ではX線とコンピュータを併用し、採取して検査するべき部分を正確に特定します。
針生検では太めの針を使って円柱状の組織を採取します。
手術生検では最大量の組織を切除します。この生検では、しこりの一部を切除したり(切開生検)、しこり全体を切除したりします(切除生検)。しこりが癌であることが判明し、医師がしこりだけでなく周辺の健康な組織の断端までの距離を十分にとって切除した場合、この切除生検は乳腺腫瘤摘出術(腫瘍と、その周囲の腫瘍のない組織を切除する手術)にもなります。
医師は、治療法の決定に役立てるために生検で得た組織を検査することもあります。この検査には次のようなものがあります。
腫瘍の特徴:腫瘍の顕微鏡検査で、浸潤性か非浸潤性か、乳管癌か小葉癌か、そして高分化か中分化か低分化かを判定し、血管またはリンパ管への浸潤の有無を調べます。
エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)検査:これらは予後(回復の可能性)と細胞がホルモン療法に反応するかどうかの判定に役立ちます。
一般に、ERまたはPR陽性(+)の腫瘍はホルモン療法に反応します。ER/PRの状態は治療法決定の目安として役立ちます。 HER-2/neu検査:これは乳癌の約25%で過剰発現している(多すぎる状態になっている)タンパク質です。
HER-2の状態は治療法決定の目安として役立ちます。

【血液検査】 医師は、癌が乳房の外部にも広がっているかどうかを判定するために血液検査を必要とすることがあります。
血算(CBC):この検査では赤血球と白血球の量を測定します。
白血球分画:この検査では白血球をタイプ別に測定します。
血小板数:血小板は血液凝固を助ける血液成分です。
アルカリホスファターゼ値:この酵素の数値が高い場合は、肝臓、骨細胞、あるいは胆管に病気がある可能性があります。
腫瘍マーカー:癌胎児性抗原(CEA)、CA 15-3、あるいはCA 27.29は、癌の存在や程度を示すことがあります。
総ビリルビン値、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(SGOT)、および血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)値:これらの検査では肝機能を評価します。高い数値は肝臓障害を示唆しており、病気が肝臓へ波及している可能性のあることを知らせるサインとなります。

【付加的検査】 以上の他に医師は、癌の病期を評価するために侵襲の少ない検査(各個人の病歴や身体検査結果によって異なる)を指示することがあります。
胸部X線は肺への転移を調べるために利用します。
骨シンチは骨への転移を調べるために利用します。
コンピュータ断層撮影(CTまたはCAT)スキャンは遠隔部への転移を調べるために利用します。CTスキャンは、多くの異なる角度から撮影した一連のX線写真から体内の三次元画像を作り出します。コンピュータがこれらの画像を集め、詳しい断面像を作成します。
陽電子放出断層撮影(PET)スキャンと呼ばれる検査が、癌の新しい診断方法として導入されつつあります。PETスキャンでは、放射性糖分子を体内に注射します。癌細胞は正常細胞より素早く糖を吸収するため、PETスキャンで光を発します。PETスキャンは、CTスキャン、MRI、および身体検査から集められた情報を補足するものとして利用されることが多いようです。

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病期診断

病期診断は、癌がどこにあるか、どこに広がっているか、そして他の臓器の機能に影響しているかどうかなど、癌の状態を表現する方法の1つです。医師は癌の病期を決定するために診断検査を行うので、病期診断はすべての検査が完了するまで終わらないことがあります。病期を知ることで、医師は、どのような種類の治療が最適かを決定することができます。また、患者の予後(回復の可能性)を予測することができる場合もあります。癌の種類によって病期分類は異なります。

医師が病期を表すのに使用する1つのツールとしてTNM分類があります。この分類では、腫瘍そのもの、腫瘍周囲のリンパ節、そして腫瘍が身体の他の部分に広がっているかどうか、という3つの基準を使用して癌の病期を判定します。その結果を総合して各個人の癌の病期を決定します。病期には0期と?〜?期の5段階があります。病期は共通した癌の表現法となるため、複数の医師が協同して最良の治療法を計画することが可能になります。

TNMは、腫瘍(T:tumor)、リンパ節(N:node)、そして転移(M:metaotasis)の略語です。医師はこの3つの要素を見て、癌の病期を決定します。

原発腫瘍はどの程度の大きさか、またそれはどこにあるか?(腫瘍、T)
腫瘍はリンパ節に広がっているか?(リンパ節、N)
癌は体の他の部分に転移しているか(広がっているか)?(転移、M)

【腫瘍】 TNMシステムでは、「T」と文字または数字(0〜4)を使用して腫瘍の大きさと位置を描写します。病期によっては、患者の状態をもっと詳しく描写するために、さらに小さなグループに分けられます。

TX:原発腫瘍が評価不能。
T0:乳房に癌の徴候なし。
Tis:非浸潤癌。この場合、癌は乳腺組織の自然境界内に限局していて、乳腺外の組織に広がっていません。非浸潤性乳癌には次の3つのタイプがあります。
Tis(DCIS):非浸潤性乳管癌(DCIS)は早期乳癌の前駆状態で、乳管に癌細胞がごく少数しか認められず、乳管の層を超えて広がっていないことを意味します。後に浸潤性の乳癌に進行する可能性があります。
Tis(LCIS):非浸潤性小葉癌(LCIS)とは、乳房の小葉すなわち腺に認められる異常細胞を指します。
LCISは浸潤性乳癌(周辺組織に広がる癌)の発症リスクを高めます。
Tis(パジェット):乳頭のパジェット病は、早期乳癌の珍しい型です。この表示は、パジェット病はあるけれども腫瘍は存在しない場合に用いられます。
T1:最大径が2 cm以下の乳房内腫瘍。
T1 mic:少数の癌細胞が周辺組織に広がっているが、大きさが0.1 cm未満の微小浸潤または微小転移。
T1a:0.1 cmより大きく、0.5 cmより小さい腫瘍。
T1b:0.5 cmより大きく、1 cmより小さい腫瘍。
T1c:1 cmより大きく、2 cmより小さい腫瘍。
T2:2 cmより大きく、5 cmより小さい腫瘍。
T3:5 cmより大きい腫瘍。
T4:胸壁または皮膚に広がっている腫瘍、あるいは炎症性乳癌と診断された腫瘍。
T4a:胸壁に広がっている腫瘍。
T4b:乳房の皮膚の浮腫(腫れ)、肥厚(橙皮状皮膚など)、あるいは潰瘍形成(乳房の皮膚/組織が崩壊し、ただれて痛む部分)、または同じ乳房の周辺の皮膚結節。
T4c:T4aとT4bの症状の共存。
T4d: 炎症性乳癌。これは乳癌の悪性型(aggressive type)で、乳房が赤く腫れて熱感があります。

【リンパ節】TNM病期診断での略語の「N」は、感染との闘いを助ける小さな豆型の器官であるリンパ節に癌が広がっているかどうかを示します。脇の下、鎖骨の上と下、そして胸骨の下にあるリンパ節は領域リンパ節と呼ばれます。身体の他の部分にあるリンパ節は遠隔リンパ節と呼ばれます。

NX:リンパ節が評価不能。
N0:リンパ節に癌は認められない。
N1: 癌が1〜3個の腋窩リンパ節(脇の下)に広がっている。
N2:癌が脇の下の4〜9個のリンパ節に広がっている、または腋窩リンパ節には波及しておらず、内胸リンパ節(胸の内側の胸骨の左右にあるリンパ節)に広がっている。
N2a:癌が脇の下の4〜9個のリンパ節に広がっている(そのうち1個以上の腫瘍沈着が2 mmを超えている)。
N2b:癌が内胸リンパ節のみに広がっている。
N3:癌が脇の下の10個以上のリンパ節に広がっている、あるいは腋窩リンパ節には波及しておらず、鎖骨下リンパ節(鎖骨の下)または内胸リンパ節に広がっている。
N3a:癌が脇の下の10個以上のリンパ節または鎖骨下リンパ節に広がっている。
N3b:癌が内胸リンパ節と腋窩リンパ節(脇の下)に広がっている。
N3c:癌が鎖骨上リンパ節(鎖骨の上)に広がっている。 リンパ節に癌がある場合、何個のリンパ節に波及しているかを知ることは医師が治療計画を立てる上でも役に立ちます。病理医は、生検からの組織標本を検査する間に、癌に冒されているリンパ節の数を判定することができます。

【転移】TNMシステムの「M」は、癌が体の他の部分に転移して(広がって)いるかどうかを表します。
MX:遠隔への広がりが評価不能。
M0:遠隔転移なし。
M1:体の別の部分への転移あり。

【癌の病期分類】
医師は、T、N、およびMの分類を組み合わせて癌の病期を表します。
0期:乳房の乳管や小葉(自然の境界)を超えて広がっていない非浸潤癌。
I期:小さく、リンパ節に広がっていない腫瘍(T1, N0, M0)。
IIa期:以下の病態のいずれか。
2 cm以下で、脇の下の腋窩リンパ節に広がっている腫瘍(T1またはT1mic, N1, M0)。
2 cmより大きく5 cm以下で、腋窩リンパ節に広がっていない腫瘍(T2, N0, M0)。
乳房に腫瘍の徴候がなく、腋窩リンパ節に存在する癌(T0, N1, M0)。
IIb期:以下の病態のいずれか。
2 cmより大きく5 cm以下で、腋窩リンパ節に広がっている腫瘍(T2, N1, M0)。
5 cmより大きく、腋窩リンパ節に広がっていない腫瘍(T3, N0, M0)。
IIIa期:以下の病態のいずれか。
5 cmより小さく、腋窩リンパ節に広がっている腫瘍(T1, N2, M0またはT2, N2, M0)。
5 cmより大きく、腋窩リンパ節に広がっている腫瘍(T3, N1, M0またはT3, N2, M0)。
IIIb期:胸壁に広がっている、または乳房の腫脹や潰瘍形成を引き起こしている腫瘍。もしくは炎症性乳癌と診断された腫瘍。脇の下のリンパ節には広がっていたりいなかったりするものの、体の他の部分には広がっていない腫瘍(T4, N0, M0;T4, N1, M0あるいはT4, N2, M0)。
IIIc期:体の遠隔部分には広がっていないものの、N3群のリンパ節に広がっている、あらゆる大きさの腫瘍(すべてのT, N3, M0)。
IV期:通常は骨、肺または肝臓の遠隔部位、あるいは胸壁に広がっている、あらゆる大きさの腫瘍(すべてのT, すべてのN, M1)。

イリノイ州シカゴの米国対癌合同委員会(AJCC)の許可を得て引用。この資料の元の出典:AJCC癌病期診断マニュアル第6版(2002)(発行、Springer-Verlag New York, www.springer-ny.com.)。

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治療

乳癌の治療法は、腫瘍の大きさと位置、癌が広がっているかどうか、そしてその人の全身の健康状態によって異なります。多くの場合、複数の医師がチームを組んで患者と一緒に最良の治療計画を立てていきます。

医師は患者の病態や個人的状況に合わせて乳癌治療を調整しますが、 乳癌治療の論理には全体に共通するステップがいくつかあります。第一に、早期癌に対する初期治療は、目に見えるすべての腫瘍の排除を目標とします。つまり医師は放射線療法を併用あるいは併用しない腫瘍切除手術を勧めます。

早期癌の治療の次段階は、残存している可能性のあるがん細胞を排除し癌再発リスクを低減することです。腫瘍がある程度の大きさになっている場合、あるいはリンパ節に波及している場合には、医師は放射線療法、化学療法、またはホルモン療法などの治療を追加することを勧めるでしょう。癌が再発した場合は、癌が発見された部位によって、患者は再度手術を受けるか、あるいは、遠隔転移の進行を抑えるための様々な治療を受けることになります。

乳癌の治療計画を立てる場合、医師は次のような多くの因子を考慮します。
腫瘍の病期と組織学的悪性度(グレード)
腫瘍のホルモン状態(ER, PR)(診断の項を参照)
患者の年齢と健康状態
患者の閉経状態
乳癌遺伝子の既知の突然変異の存在
HER-2/neu増幅など、進行のはやさを示す因子(診断を参照)

 

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手術

通常、腫瘍が小さければ小さいほど、患者にとって手術の選択肢は多くなります。一般的な手術のタイプとしては、次のようなものがあります。
乳腺腫瘤摘出術では、腫瘍に加えて、周囲の「きれいな」、すなわち癌に冒されていない健康な組織断端を少し切除します。術後に癌の部位に放射線療法を施します。
乳房部分切除術では、腫瘍、一定範囲の正常組織、および腫瘍部位の胸筋の上にある裏打ち部分を切除します。この手術は乳腺腫瘤摘出術と似ています。これは乳房分節切除術とも呼ばれ、術後に放射線療法が必要です。
全乳房切除術では、腋窩リンパ節を残して乳房全体を切除します。この手術は単純乳房切除術とも呼ばれます。
非定型乳房切除術では、乳房、腋窩リンパ節の一部、そして胸筋の筋膜を切除します。
腋窩リンパ節郭清では、外科医が脇の下から多数のリンパ節を切除し、その中に癌細胞が入っていないか病理医が検査を行います。
センチネルリンパ節生検は、乳房からの排液を受けているセンチネル(第一)リンパ節を発見して切除し、それに癌細胞が入っていないかどうか検査を行うという新しい方法です。センチネルリンパ節を見つけるために、外科医は色素または放射性トレーサーを原発乳腺腫瘍の周囲に注射します。色素またはトレーサーはリンパ節に移動し、センチネルリンパ節に最初に到達します。色の変化(色素を使った場合)または放射能の放出(トレーサーを使った場合)により、外科医はそのリンパ節を発見することができます。センチネルリンパ節生検後のリンパ浮腫(腕の腫れ)のリスクは比較的低いと考えられています。センチネルリンパ節に癌が存在しなければ、それ以外のリンパ節にも存在しない可能性が高いことが研究によって示されており、それ以上リンパ節の手術を実施しません。センチネルリンパ節が癌陽性であった場合、外科医は腋窩リンパ節郭清を行います。
ほとんどの患者は、最初にセンチネルリンパ節生検または腋窩リンパ節郭清を受けます。センチネルリンパ節が陽性であった患者には、腋窩リンパ節郭清が必要です。外科的治療選択肢には以下のものが挙げられます。
乳腺腫瘤切除術と放射線療法
乳房部分切除術と放射線療法
全乳房切除術
非定型的乳房切除術


浸潤性乳癌の小さな腫瘍の治療では、乳腺腫瘤切除術または乳房部分切除術、腋窩リンパ節切除、および放射線療法の併用が、非定型乳房切除術と同等の効果であることが、複数の臨床試験で証明されています。

どんな手術法が自分に適しているのか、医師と話し合うようにしてください。必ずしもより侵襲の強い手術(乳房切除術など)の方が良いとは言えず余分な合併症が生じる可能性があります。

全乳房切除術を受ける女性は、乳房再建術の検討をしたいと思うかもしれません。再建術は、身体の他の部分の組織、または合成インプラントを使用して行います。乳房再建術は、乳房切除術と同時に行うか後日に行うかを、選択することになります。 詳しくは乳房切除術後乳房再建、および人工乳房の選択の項をご覧ください。

 

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アジュバント療法

アジュバントとは「追加して」という意味で、この治療は乳癌再発リスクを減らすために、手術または手術プラス放射線療法に加えて行われます。アジュバント療法には、放射線療法、化学療法、およびホルモン療法が含まれます。この治療の目的は、体内に残っているすべての乳癌細胞を排除することです。アジュバント療法によって再発のリスクは低下しますが、ゼロになるわけではありません。

 

 

放射線療法

放射線療法とは、高エネルギーのX線その他の粒子を使って癌細胞を殺すことです。放射線療法は、腫瘍部位近辺に残っている癌細胞を排除するために、乳腺腫瘤切除術または乳房部分切除術後、数週間にわたって一定間隔で実施されます。放射線療法は、乳房切除術を受けた多くの女性にも、その腫瘍の大きさ、波及していた腋窩リンパ節の数、そして外科医が切除した断端までの距離に応じて勧められます。時には、手術前に大きな腫瘍を縮小させて切除を容易にするために放射線療法が施されることがあります。

放射線療法は、乳房と胸壁における乳癌再発リスクを低下させるのに有効です。最も多いタイプの放射線療法は外部照射法と呼ばれるもので、放射線は体の外にある機械から照射されます。インプラントを使用し放射線療法を行う場合は内部照射法と呼ばれます。

放射線療法は、疲労、腫脹、皮膚の変化といった副作用を引き起こす可能性があります。胸壁に接した肺の一部に放射線照射がかかってしまうことがありますが、肺臓炎すなわち放射線肺炎が起こるリスクは非常に小さなものです。

かつて、古い装置と技術で放射線療法が行われていた頃は、左側の乳癌をもつ女性に放射線治療を行った場合心臓病の長期的リスクが少し増大しました。現在の技術では、心臓の大部分を放射線による損傷から守ることができます。放射線照射は何年も後に癌を発症するリスクファクターになると考えられていますが、治療した部分に乳癌以外の癌を発症する例は生存者500人中1人にも満たない数字です。

 

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化学療法

化学療法とは、薬物を使って癌細胞を死滅させる方法です。化学療法剤は血流を通って体の至るところの癌細胞へと運ばれ、原発腫瘍部位から移動した癌細胞を破壊します。これは経口または静脈内投与され、通常は周期的に用いられます。化学療法には一般に入院は不要で、通常は外来での治療となります。

臨床腫瘍医は、大きな腫瘍を縮小するために術前に化学療法を施したり(ネオアジュバント療法)、術後に投与したりします(アジュバント療法)。ネオアジュバント療法の目的は、手術で腫瘍全体を切除することにあります。

癌の種類によって有効な化学療法剤も異なり、いくつかの薬物を併用する方が単独使用するよりも有効であることが研究によって示されています。乳癌に対する一般的な治療法では、シクロホスファミド(C)、メトトレキサート(M)、フルオロウラシル(5-FU)(F)、ドキソルビシン(A)、エピルビシン(E)、パクリタキセルおよびドセタキセル(T)という化学療法剤のうち2〜3種類を併用します。臨床試験に参加した女性には、既存薬の新しい併用法や新薬が提案されることがあります。一般的な薬物併用法には、CMF、CAF、CEF、T([この場合は]ドセタキセル)ACおよびACに続いてT([この場合は]パクリタキセル)などがあります。

化学療法剤は強力で、体内の健康な細胞と癌細胞の両方に作用します。消化管や毛包を縁取っている細胞など、急速に増殖する正常細胞は、癌細胞と一緒に傷つけられたり死滅させられたりする場合があります。副作用として、疲労、悪心嘔吐、白血球数の減少とそれによる感染リスクの増大、口のただれ、脱毛、早期閉経などが起こる可能性があります。これらの副作用の大部分は治療を止めると解消し、長期間続くことはありません。ただし、心機能障害、末梢神経障害、あるいは二次的な癌など、長期毒性が生じることもあります。

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ホルモン療法

ホルモン療法は、検査でエストロゲンまたはプロゲステロン受容体が陽性となった腫瘍の治療に有効です。これらの腫瘍はホルモンを成長のエネルギー源として利用します。ホルモンを遮断することによって、この種の腫瘍の成長を制限することができます。

腫瘍が成長のために、エストロゲンまたはプロゲステロンを利用していることが明らかになった場合(ホルモン受容体陽性[診断の項を参照])、単独または化学療法と併用でホルモン療法が用いられます。アジュバント療法として使用されるホルモン療法(剤)の例としては、タモキシフェン、アナストロゾール(商品名:アリミテックス)、レトロゾール(商品名:Femara/日本未承認)、エキセメスタン(商品名:アロマシン)などがあります。

タモキシフェンは、ホルモン療法として最も古くから研究されている薬物です。これはエストロゲンが腫瘍細胞と結合するのを妨げ、治療した乳房の再発リスク、反対側の乳房の癌発症リスク、そして乳癌の病歴はないが発症リスクが平均よりも高い女性の癌発症リスクの低減に有効なことが示されています。最近の研究では、タモキシフェンを5年以上服用してもそれ以上はメリットにはならないことが示されています。

タモキシフェンの副作用には、ホットフラッシュ(体のほてり)、子宮癌と子宮肉腫のリスクのわずかな増大、そして血栓症リスクの増大があります。タモキシフェンは閉経前と閉経後の両方において有効です。

ラロキシフェン(商品名:エビスタ 日本では、閉経後骨粗しょう症に対して承認されています)などの新しい薬物もホルモン剤として有望視されています。いずれは、これらが副作用を起こすことなくタモキシフェンと同等の効果をもたらすことが証明されるかもしれません。しかし、まだ臨床試験での比較が必要です。

アロマターゼ阻害剤はエストロゲンの産生を減少させ、閉経後の女性に有効です。これは、エストロゲンの産生に必要なアロマターゼ酵素の働きを阻害することによって作用し、ホルモン感受性癌の女性に望ましい治療法として浮上してきています。アロマターゼ阻害剤には、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンなどがあります。詳しくは患者のためのASCOテクノロジーアセスメント:早期乳癌に対するアロマターゼ阻害剤をご覧ください。

分子標的療法.新しい有望な乳癌治療薬の中には、制御不能な細胞の無制限な成長と分裂を引き起こす異常タンパク質の作用を止める働きを持つものがあります。 モノクローナル抗体は、乳癌細胞に異常に多く存在するタンパク質を標的とします。 トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)は、HER-2/neuを過剰発現している進行性乳癌の治療薬としてすでに承認されています。早期乳癌に対する効果も現在評価中です。 ベバシズマブ(商品名:Avastin 日本未承認)は、腫瘍の成長と転移(広がり)に必要な血管新生(新しい血管の形成)を阻害します。現在、臨床試験で評価中です。

 

 

再発乳癌

最初の診断と治療を経て乳癌が再び生じた時、それは再発と呼ばれます。再発は、乳房(局所再発)、胸壁、あるいは体の他の部分に起こりますが、遠隔臓器(肺、肝臓、骨など)に生じた場合は遠隔転移と呼ばれます。

乳癌は、脳、反対側(最初に発生した癌とは反対側)の乳房、副腎、脾臓、卵巣など、他の器官に広がることもあります。腫瘍が転移している(乳房以外や局所リンパ節を超えて広がる)場合は一般に治癒不能です。進行癌の治療目標は、寛解(一時的または永久的な病気の症状不在)の達成または腫瘍の成長を遅らせることです。乳癌が再発しても、多種類の治療を受けながら、何年も生存する患者もいます。早期発見方法と新しい治療法の出現により、一部の患者にとって乳癌は慢性疾患と見なすことが可能になってきました。

一般に再発は、何らかの自覚症状が生じた時に発見されます。症状が発現する前に転移出現による再発を発見できる検査もありますが、再発を早期発見しても、進行癌の治療反応性が向上することもなければ患者の生存年数が延びることもないということが、研究によって示されています。

転移が発見された場合、転移病巣を切除する手術や、それをコントロールするための化学療法、ホルモン療法、放射線療法、あるいは分子標的治療(トラスツズマブなど)が施されます。自覚症状や徴候(他覚所見)は再発部位によって異なり、次のようなものがあります。
脇の下や胸壁に沿ったしこり
骨痛や骨折:これは骨転移を示唆します
頭痛や痙攣発作:これは脳転移を示唆します
慢性的な咳や呼吸困難:これは肺転移を示唆します

これ以外にも転移病巣の場所に関連した徴候が生じることがあり、それには視力の変化、活力の変化、気分がすぐれない、極端な疲労などがあります。

再発の診断を確認し、ER、PR、およびHER-2/neuの状態を調べるために、多くの場合、再発部位の生検が勧められます。可能であれば、ホルモン療法が最初に行われます。化学療法と分子標的治療も行われますし、状況によっては放射線療法や手術が実施されます。

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医師に尋ねるべきこと

十分な情報に基づいて自分の治療に関する決定を下すためには、定期的に医師とコミュニケーションをとることが大切です。以下のような質問を医師に尋ねてみてください。

私の乳癌はどんなタイプですか?
私の腫瘍の大きさはどのくらいですか?
幾つのリンパ節に転移がありますか?
私の癌はホルモン受容体陽性ですか?
私のHER-2状態はどうなっていますか?
私の乳癌の病期は何期ですか?
治療方法にはどんな選択肢がありますか?
乳癌に関する臨床試験や他の新しい治療法の情報はどこから得られますか?
この治療にはどんな副作用がありますか、そして私にはそのリスクがありますか?
この治療は私にとってどのようなメリットがありますか?
この治療は私の日常生活にどのような影響を与えますか?
仕事や運動や普通の活動は可能ですか?
私の治療計画はどのようなスケジュールになると予想されますか?
私の場合、乳房温存手術は可能ですか?
私の場合、センチネルリンパ節生検は可能ですか?
私の場合、乳房再建術は可能ですか?
どうすれば治療の影響を緩和できますか?
私にリンパ浮腫のリスクはありますか、仮にあるなら、どうすればそのリスクを減らせますか?
私のフォローアップケアにはどんなものが含まれますか?
癌が再発しているかどうかをどうやって調べるのですか?
疑問がある時、問題が発生した場合は誰に尋ねれば良いですか?
私自身や私の家族に精神的な支えが必要になった時は、誰に連絡をとれば良いですか?

 

 

最新の研究

乳癌のよりよい診断法や治療法については研究が進行中です。以下のような最新技術は未だ臨床試験において検討中であり、現時点ではまだ認知されておらず、実際に利用できる段階にはありません。診断と治療のすべての選択肢を常に医師と話し合うようにしてください。
新しい術式:組織を温存したり瘢痕形成を防ぐことができる新しい術式が現在臨床試験で試されています。皮膚を温存する乳房切除術では、おそらく従来の手術よりも瘢痕形成が少なくなります。

内部照射法:小線源療法とも呼ばれる内部照射法は、乳癌細胞に放射線を直接照射する方法です。この治療法では、小さな放射性ペレットを乳腺腫瘍の内部または近くに植え込みます。癌細胞を直接標的とすることで、患者が放射線療法を受けなければならない期間が短縮されます。

強度変調放射線療法(IMRT):IMRTは、乳房への外部照射法を進歩させたものです。乳房に向ける放射線の強度を変化させることにより、従来の放射線療法よりも正確に腫瘍を狙い打ち、健康な組織の損傷を減らします。IMRTは、一部の患者で、心臓など近隣の重要器官への線量を低減させることもできます。

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患者向け情報源

Breast Cancer Dashboard Interactive Map
CORDA Technologies, Inc.
350 South 400 West
Suite 100
Lindon, UT 84042 United States
http://www.corda.com/breastcancer

BreastCancer.Net
United States
http://www.breastcancer.net

California Medical Review, Inc. (now Lumetra)
Mammography Campaign
One Sansome Street
Suite 600
San Francisco, CA 94104-4448 United States
Phone: 415-677-2000
http://www.lumetra.com/healthplans/bcs/index.asp

Encore Plus of the YWCA of the USA
United States
Phone: 800-95-EPLUS
http://www.ywca.org/

FORCE: Facing Our Risk of Cancer Empowered
934 N. University Drive
PMB #213
Coral Springs, FL 33071 United States
Phone: 954-255-8732
http://www.facingourrisk.org

Inflammatory Breast Cancer Help Page
United States
http://www.ibcsupport.org

Inflammatory Breast Cancer Research Foundation
321 High School Road, NE
#149
Bainbridge Island, WA 98110 United States
Phone: 877-786-7422
http://www.ibcresearch.org

Living Beyond Breast Cancer
10 E. Athens Avenue
Suite 204
Ardmore, PA 19003 United States
Phone: 610-645-4567
Fax: 610-645-4573
http://www.lbbc.org

Mothers Supporting Daughters with Breast Cancer
c/o Charmayne Dierker
21710 Bayshore Road
Chestertown, MD 21620-4401 United States
Phone: 410-778-1982
http://www.mothersdaughters.org

National Lymphedema Network
Latham Square
1611 Telegraph Avenue
Suite 1111
Oakland, CA 94612-2138 United States
Phone: 800-541-3259
Fax: 510-208-3110
http://www.lymphnet.org

Nueva Vida, Inc.
2000 P St., NW
Suite 740
Washington, DC 20036 United States
Phone: 202-223-9100
Fax: 301-384-2336
http://www.nueva-vida.org

SHARE: Self-help for Women with Breast or Ovarian Cancer
1501 Broadway
Suite 1720
New York, NY 10036 United States
Phone: 866-891-2392 / 212-719-0364
Fax: 212-869-3431
http://www.sharecancersupport.org

Sisters Network, Inc.
8787 Woodway Drive
Suite 4206
Houston, TX 77063 United States
Phone: 866-781-1808 (toll-free) Phone: 713-781-0255
Fax: 713-780-8990
http://www.sistersnetworkinc.org

The National Breast Cancer Coalition
1707 L Street, NW
Suite 1060
Washington, DC 20036 United States
Phone: 800-622-2838 Fax: 202-265-6854
http://www.natlbcc.org

The Susan G. Komen Breast Cancer Foundation, Inc.
5005 LBJ Freeway
Suite 250
Dallas, TX 75244 United States
Phone: 800-IM-AWARE (800-462-9273) Phone: 972-855-1600
Fax: 972-855-4300
http://www.komen.org/

Y-ME National Breast Cancer Organization, Inc.
212 West Van Buren Street
Suite 500
Chicago, IL 60607 United States
Phone: Hotline, English: 800-221-2141
Hotline, Spanish: 800-986-9505
Fax: (312) 294-8597
http://www.y-me.org

PLWCの患者向け情報源は、すべてご参考ください。

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臨床試験の情報源

医師や研究者は、乳癌患者を治療するための、より良い治療法を常に模索しています。臨床試験は、新しい治療法が安全かつ有効でおそらく標準的治療法よりも優れていることを証明するために、その新しい治療法を試す1つの方法です。臨床試験に参加する患者は、新しい化学療法剤などの新しい治療法を、それが広く利用可能になる以前に初めて投与される人たちとなります。ただし、その新しい治療法が安全で、有効で、標準的治療法より優れているという保証はありません。

患者が臨床試験への参加を決心する理由は色々あります。臨床試験が、利用可能な最良の治療の選択肢になる患者もいます。標準的治療法が完全とは言えないため、より良い結果を求めて臨床試験の不確定要素に進んで立ち向かう患者は大勢います。あるいは、臨床試験が新薬の発見のような乳癌治療の進歩を実現させるための唯一の方法であることを理解し、参加を志願する患者もいます。臨床試験に参加することが患者に直接的な利益を与えなかったとしても、将来の乳癌患者の利益となります。

患者が臨床試験に参加するためには、インフォームド・コンセントと呼ばれる学習課程を修了しなければなりません。このインフォームド・コンセントでは、医師が患者の選択肢のすべてを列挙し、新しい治療法が標準的治療法とどのように違うのかを患者が理解できるようにします。医師はまた、新しい治療法のリスクを、それが標準的治療法のリスクと同じであるにせよ、同じではないにせよ、すべて列挙しなければなりません。そして、来院回数、検査、治療スケジュールなど、患者が臨床試験に参加するために要求される項目について、その内容を説明しなければなりません。「臨床試験」のリンクでは患者の安全、臨床試験の段階、臨床試験参加の決定、研究チームへの質問、そして癌の臨床試験について良く知るためのリンク集などの情報が得られます。

監修:藤原康弘(国立がんセンター中央病院乳腺:腫瘍内科グループ長)

 

 

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