乳がん関連の報告・取材 --- 004 The 2007 Breast Cancer Symposium 速報
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今回の学会でのGianni Bonadonna Breast Cancer Award Receipient であり、私の恩師でもあるDr. Daniel Hayes と。 | ||
今年の日本乳癌学会の招待講演者であったスタンフォード大学のDr. Ikeda と。 | サンフランシスコゴールデンゲートブリッジにはやはり霧がかかっていました。 |
一言でいえば、局所再発は生存率に影響を及ぼすので局所コントロールは重要だということで、今までの考え方というか流れをまた変える必要のある呈示であった.データとしては、 Clarkeによって2005年にLancetに発表されたEarly Breast Cancer Trialists’Collaborative Group (EBCGTCG)を用いていた.15年フォッローアップのデータが出て、5年局所再発率が15年での生存率に影響を及ぼすことが明らかになった.局所コントロールの一つの方法として、放射線療法があるが、これによる副作用も十分考えながらこの事実を受け止め、局所コントロールの徹底に努めるべきであると力説されていた.質問の中で、Dr. Larry Nortonが局所再発は、単に局所治療の失敗だけであるのか、それよりももっと局所再発してくるような腫瘍自体のbiologyに問題注目すべきでないかという、興味深い発言もあった.
上のDr. Harris の発表を受けて、放射線治療の厄介な副作用である心毒性についての総説であった.心毒性を軽減するテクニックとして、CTを用いた3D treatment planning やprone position での照射等があげられた.また高血圧や喫煙等の他の心臓リスクも軽減すべきであリ、個々の患者に会わせた治療が大事である.
これは比較的新しいデータであった.ハーセプチンのneoadjuvant Phase 3 のトライアルで、228人のHer2 陽性の局所進行性乳癌に対して化学療法にハーセプチンを加えることによってpathological complete responseが23%から43%に統計学的有意差をもって改善した.心毒性は他のハーセプチンのデータとかわりはなかった.
個人的なことであるが、私の研究をしていた時のボスであり、恩師である
何か新しいデータというよりも“前癌状態”を新しいコンセプトで考えをまとめた解説といえると思う.
乳癌の前癌状態として、Usual Ductal Hyperplasia (UDH), Atypical Ductal Hyperplasia (ADH), Lobular Carcinoma in Situ (LCIS) そしてDuctal Carcinoma in Situ (DCIS)がある.これらの状態は、 発生してくる癌の片側性からDCISのように100%同側に起こってくる“Precursor”と呼べる状態と、UDHのように半分のみが同じ側に発生し、両側の乳癌の発生リスクは同じ "Marker" といえるものの二つに分けることを呈示していた.また、ADHおよびLCISはその中間に位置し、60%は同側に発生してくるが、単なるMarkerのみとはいえず、Precursorの性格もあるであろう.治療の意味での違いは、Precursorは治療として完璧な局所的な根絶が必要であるが、Markerの場合、経過観察、タモキシフェンによる予防、あるいは両側性乳房切除等になる.
また、今までのようにただhyperplasiaがatypical hyperplasiaになって、in situ carcinamo になっていくという直線的発生の考え方よりも、分子遺伝学的な分析から,乳房の癌化の過程としてもっとLow grade のDCISへ向かうLow grade pathway と High grade のDCISへ向かうHigh grade pathwayへとすでに増殖の時点で別れていくという新しい過程の考え方ができると報告していた.
これは最近の最もトピックいえるので、 午後5時頃からの第一日目の一番最後の発表にもかかわらず、大勢の人が残って聞いていた.しかし、残念ながらとくに新しい情報はなかった様に思う.
Gene expressionの研究が進むにつれて、その発現のパターンの違いにより、 "luminal type" "basal-like" など分けることができる."basal-like" typeはER, PR , HER-2のいずれも陰性であることから、"Triple-Negative” ともいわれ、その予後の悪いことはいくつかの研究で証明されている(Fan2007NEJM, Dent 2007 Clin Can Res).
また, BRCA1との関連もいわれていて、BRCA1mutation を持つ女性が乳癌になると80%の確率でbasal-like typeである.しかし、逆は成り立たず、basal-typeの中で、BRCA1 関連であるものの締める割合は高くなく、ほとんどがsporadicなケースである.
乳癌のリスクファクターとの関連でも意外な事実が分かった.1424人を調べた結果で、3人以上子供がいることや初めての妊娠が26歳以下であること等の今までいわれていたリスクファクターに関連する因子でのRRが796人のLuminal type Aの患者におおいて0.7なのに対して、basal-like type の患者225人ではRR1.9になる.これは興味深い報告で、今後乳癌のリスクファクターに関するBasal-like-type等に分けての再検討が必要になるであろうと呈示していた.
Basal-like はtriple-negativeであることから、ERやHER-2を標的とした治療が行なえないことから、治療のあたまを悩ませる所である.DAN damaging agent (Platinum), Antiangiogenesis (Bevacizmab, TK1), EGFR inhibitor, Src inhibitor, PARP inhibitor などが可能性のある治療薬として現在検討中であり、これからでてくるデータに注目したい.