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Dr.吉田の米国取材:ASCO Breast Symposium


ASCO Breast Symposium
報告:吉田 敦(聖路加国際病院ブレストセンター)

6月のASCOと12月のSan Antonioの中間の10月に開催される、ASCO Breast Symposiumは今年で3回目の開催になる。今回も10月8日~10日の3日間、San Franciscoで開催された。
乳がんの様々なTopicについてSeminar形式の講演が行われた。

  • General Session I: Keynote Incorporation of Translational science into Clinical Trial
  • General Session II : Bones and Breast cancer
  • General Session III : Challenges in survivorship
  • General Session IV : The High Risk Patient ; BRCA and Beyond
  • Tumor Board : Local Regional Management and Poster Discussion : systemic management
  • General session V : Maximizing Local Control
  • General Session VI : controversial in the Management of axilla
  • General Session VII : New Targets, New drugs
  • General Session VIII : Keynote The Relevance of Stem Cells to the Prevention and Treatment of Breast cancer
  • General Session IX : New diagnostic Technologies : Evaluations and Integration into clinical care

Bones and Breast cancer

Assessment and maintenance of Bone Health
Pauline Cacachio, MD
骨粗鬆症の発症数は低く見積もられがちであり、潜在的な骨粗鬆症による骨折の患者数はアメリカで1年間に推定205万人と見積もられる、この数は冠動脈疾患の51万人、脳卒中の42万人、乳がんの24万人と比べてもはるかに多い数であり、この予防は非常に重要である。乳がん患者の治療に用いられるAI剤による2次性の骨粗鬆症は、ATAC Trial、MA-17報告で報告されており、2001年に発表されたNORA studyの結果から、T-scoreが-2.5SD以下で骨折のRiskが高かったが、-2.5SD以上の患者でもそのRiskを効果的に予測することが重要である。FRAX:Who Fracture Risk Assessment Toolは10年以内の骨折の発生リスクを評価するため、WHOにより開発されたToolで、このような患者の骨折のRiskを評価するのに有用である。
 骨粗鬆症の予防にはBisphosphonateが有用であるが、VitaminD3の摂取も重要である。National Health and Nutrition Surveyの結果から、50歳以上のアメリカ人女性の70%以上でVitaminD3の摂取が不十分であった。(一日の摂取推奨は400IU)。乳がんの治癒率の上昇に伴い、Cancer survivorも増えることが予想され、今後も適切なBone hearthの管理がますます重要である。

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Challenges in survivorship

General Session III : Challenges in survivorship
Exercise and Diet : Impact upon Breast Cancer Risk
Jennifer A. Ligibel, MD : Dana-Farbar Cancer Institute
食事がと乳がんの再発の関連性について、WINS : The Women’s International Nutrition Studyの結果について説明された。2400人の早期乳がんの患者に対し、Low-Fat Dietによる介入で15%カロリーを抑えた群と、コントロール群を比較したStudyである。3年間の平均観察期間で、Low-Fat Diet群で約25%のRisk Reductionが認められた。またSubset analysisではER陽性群に比して、ER陰性群でより大きな差が認められた。(HR0.85 vs HR0.58)。このDietによるRisk reductionの原因に関して、以前は性ホルモンの影響が考えられていたが、この結果を受けて、炎症や代謝関連のホルモン、とりわけインスリンが注目された。Insulin, C-peptideのレベルがRecurrence Riskに関与しているという報告も見られている。またこのようなLife Styleの変化により最も影響を受けるのは、体重や体脂肪率ではなく、血中のインスリンレベルであることも報告されている。
WHEL : The Women’s Healthy eating and Living Studyについても説明があった。このStudyは3088人の早期乳がん患者に対するRandomized Studyで、電話による介入で果物と野菜の摂取、Low-Fatを薦める群と、コントロール群での比較である。4年間の平均観察期間でDFSに有意差は認められなかった。しかしながら、ホットフラッシュの有無による解析を行ったところ、ホットフラッシュを認めない患者群においては、有意にDFSが良好であった(HR:0.69)。昨今、ホルモン治療患者でホットフラッシュを認める患者群で予後が良好であることが報告されており、この結果はホットフラッシュを認めないEstrogen Levelの高い群では、食事の影響が予後に関連するのかもしれないと考察可能である。しかしながら、異なった結果の報告もあり、まだ混沌とした状況である。

Maximizing Cardiovascular Health after Breast Cancer
Jean- Bernard Durand, MD
Preservation of Fertility in Breast Cancer Survivors
Senait Fisseha, MD,JD
Who Should Provide Long-Term Care?
Eva Grunfeld, MD. D.Phil.
 このほかにも、乳がん患者に用いられる数多くの薬剤の心機能に与える影響についての講演や、若年乳がん患者の妊孕性の問題についての講演が続いた。アルキル化剤が最も卵巣機能に影響を与える可能性があるといわれており、CMFで40歳以下では約40%が無月経に、40歳以上では75%が無月経になる危険性があり、年齢とともに閉経の危険性は増加する。20歳では約20,400mg、40歳では5,200mgのCyclophosphamideで化学的に閉経すると考えられる。またこのような化学療法から妊孕性を保持するための選択肢として、Evidence-basedなものはEmbryo-cryopreservation:受精卵凍結保存のみであり、現在広く用いられているGn-RH agonistによる卵巣機能保護はまだ確立したEvidenceがない。今後の可能性として、Ovarian tissue cryopreservation:卵巣凍結保存やOocyte cryopreservation:卵母細胞凍結保存法などがあげられる。アメリカでも日本と同様不妊治療の保険適応は厳しく制限されているのが現状であり、がん治療で多額の費用負担を強いられる若年層の患者にとって、大きな問題であることはアメリカでも同じようであった。
 次にWho Should provide Long-Term careと題された講演があった。
ここでは早期乳がん患者の術後フォローアップを、家庭医が行う群と腫瘍専門医の行う群の2群にRandomizeし比較したカナダのStudyでは、Clinical, Quality of Lifeいずれも差はなく、患者さんの満足度は家庭医のほうが高く、費用も少なかった。もちろん日本とは環境も家庭医の立ち位置も異なるのでその評価は難しいが、このようなStudyが真剣に取り組まれていることが、まず日本と大きな違い日本も見習わなければならない。



General Poster Session A
Prognostic Value of HER2-positive Circulating Tumor cells and serum HER2 Levels in patients with metastatic breast cancer.
Dr Hayashi Naoki
林先生は昨年までの聖路加国際病院での研修を終え、現在TexasのMDACC:MDAnderson Cancer centerで研究を続けられている。
今回のASCO Breastでは、聖路加で行ったCTC:Circulating Tumor Cellの研究について、Poster Sessionで発表された。このStudyはすでにCristfanilliらによって示されている、「治療開始前に5個以上のCTCが7.5mlの血液中に存在することが独立した予後因子である。」という結論と。「治療開始後3~4週に5個以上のCTCが7.5mlの血液中に存在することが独立した予後予測因子である。」という結論のもとに行われたStudyで、CTCでのHER2発現と血清HER2を計測し、CTCのHER2 Statusが予後因子となるかが検討された。データの詳細はここでは割愛するが、結論として、原発巣のHER2の如何にかかわらず、治療開始後3~4週の時点でHER2陽性のCTCが認められることが、独立した予後予測因子となりえることと、感度の高い方法といわれるCLIA法で計測された血清HER2の値でもその値は予後とは相関しなかったということが発表された。原発巣のHER2発現と、転移巣でのHER発現が異なることは数多く報告されており、今回の発表でも原発巣のHER2が陰性でも、CTCのHER2発現が見られる事が示されていた。今後治療薬の選択や、転移のメカニズムの解析などに貢献するStudyであると感じた。今後行われるであろう臨床試験への発展が大きく期待される。

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The High Risk Patient ; BRCA nad Beyond

General Session IV : The High Risk Patient ; BRCA nad Beyond
Assesment Models ,Genetic Testing, and Prevention
Jeffrey N,Weitzel, MD
Genetic Etiology and Pathogenesis of Breast Cancer Risk
Jody E. Garber. MD, MPH
日本でも最近わずかに話題に取り上げられるようになった、BRCAのSessionである。日本の現状では、BRCA検査の認知度は非常に低いが、アメリカでは、この遺伝性乳がんの情報がNewsweekやTIMEの表紙を飾る話題のひとつにもなっており、国民の関心の高さを物語っている。今回のシンポジウムでも、このようにひとつのSessionになっていることに驚く。
アメリカ人の乳がん患者の中で、約5-7%が遺伝性の乳がんであり、家族歴を有するものをあわせると、約20-25%がこの範疇に入る。BRCAのMutationはアメリカ人の一般人で0.1%、乳がん患者で3-5%、35歳以下の乳がん患者で10%、49歳以下で3%、卵巣がん患者で4-12%と見積もられるという。
そのなかで、どのような患者に検査を行う(薦める)べきかが話題となっていた。BRCAのMutationをもつRiskを見積もる方法として。

  • Couch Model
  • Penn II
  • Myriad Model
  • BRCAPro Model
  • Tyrer-Cuzick
  • BOADICEA
  • Manchester Scoring System

といったモデルがあり、それぞれの特徴について講演があった。日本でもこのようなRisk assessment toolによるApproachが今後必ず必要と考えられ、日本がいかにこの分野で遅れているかを痛感した。
また、最近話題である、BRCA1 associated cancerとTriple Negative Cancerの相同性に関するMicroarrayのDetaが紹介され、ASCOで発表されたTriple Negative Cancerに対し、CisplatinをもちいたNeo adjuvant chemotherapy において、BRCA1 associated cancerに限って解析すると、pCR rateが72%と高率であった試験の内容などが発表されていた。
またBRCA以外の遺伝子で発症する家族性乳がんについても言及されており、家系に少なくとも3人以上の乳がん患者がいて、少なくとも一人が50歳未満で発症している165家系、748人の女性の調査では乳がんの発症率は高かったが、卵巣がんに関しては発症率の増加はなかったとの報告が発表され、このような家系では乳がんに関してはBRCAの保因家系と同様のフォローが薦められると述べられていた。


General Session VII : New Targets, New drugs

Update on the Clinical Status of PARP Inhibitors for the treatment of Breast Cancer
Antoinette R.Tan, MD : The Cancer institute of New Jersey
今年のASCOで話題となったPARP inhibitorの発表についての発表であった。詳細は田でも話題になっており、割愛する。

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The Science Behind Supercharging Hormonal Therapy

The Science Behind Supercharging Hormonal Therapy
Suzanne AW Fuqua, PhD : Baylor College of Medicine
ホルモン療法の治療抵抗性のメカニズムについて、

  • 治療によるERの減少
  • IGF-1R,HER2,EGFR,などのGFRの過剰発現とPI3/AKT signalingの関与
  • Androgen Receptorの過剰発現

について講演があった。Basic Researchの結果の発表が中心で、理解が困難だった。
TAMに抵抗性となったがん細胞では、EGFRやHER2、IGFなどのGFR : Growth Factor Receptorが活性化しているといった実験報告や、AR:Androgen Receptorは広く乳がん細胞に発現しており、その発現は一般的に予後良好因子と考えられているが、このARが過剰発現している細胞株ではAI剤の抗腫瘍効果が低下していたという基礎実験の報告から、ARの過剰発現がホルモン療法の抵抗性に関与していることが考えられている。といった内容であった。

総じて、日本の学会に比べ、女性の発表が非常に多く、また、腫瘍内科医や疫学研究者の専門的な講演が多く、視点が異なることがとても勉強になった。今後の日本の方向性を考える上で、外科医中心の今の日本の乳癌診療が非常に偏りがあることが感じられた。
 今後もこのような国際学会に参加し、視野を広げていくことが大切であると感じました。
このような貴重な機会をいただけたことを感謝いたします。

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