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Dr. 林の米国取材:NCCN 15th annual conference


NCCN 15th annual conferencee(Clinical Practice Guidelines & Quality Cancer Care)
報告:林 直輝
(The University of Texas, M. D. Anderson Cancer Center, department of Breast medical oncology, 聖路加国際病院, ブレストセンター乳腺外科)


2010年3月10~14日、フロリダ州マイアミ、ハリウッドにてNCCN 15th annual conference(Clinical Practice Guidelines & Quality Cancer Care)が開催されました。
この年次総会は、各癌領域のガイドラインを前年までの新しいエビデンスをもとにupdateすることを目的としたものです。
Breast Cancer Guidelines Update のセッションでは、日本でもお馴染みのRobert W. Carlson, M.D. (Stanford Comprehensive Cancer Center) による発表が行われました。

今回のセッションのアウトラインは

  • 初期検査 Initial workup (遺伝子診断、PET/CT)
  • 局所治療 Local therapy (センチネルリンパ節生検)
  • 術後療法 Adjuvant systemic therapy
  • 転移性乳癌に対する治療 Systemic Therapy for metastatic breast cancer

の4つに分けられ、改訂された部分について論じられました。

初期検査 Initial workup

近年、各種、遺伝子検査が臨床にも活用されるようになっています。現時点のエビデンスからは、初期診断の時点で、通常の検査に加え、StageⅠ,Ⅱ,及び、T3N1M0で、遺伝性乳癌リスクの高い患者には遺伝子カウンセリングが推奨されます。
また、T3N1M0の患者には骨シンチグラフィ及び腹部CTによる転移検査が推奨されます。
PET/CTによる早期乳癌でのリンパ節転移の診断は、Sensitivity 20-61%, Specificity 80-100%であり、現時点では推奨されません。また、早期乳癌に対する転移検索としてのFDG-PETおよびPET/CTの有用性がペンシルバニア大学のC. E. Carrら(ASCO abst. #530, 2006) や、カンサス大学のQ. J. Khanら(ASCO abst. #558, 2007) によって行われていますが、いずれも低い感度を示しています。このため、NCCNガイドラインとしては、StageⅠ,Ⅱには、転移検索としてのPET/CTも推奨されません。StageⅢには、他の検査で確証ができない場合のオプションとしての検査となります(推奨カテゴリー2B*)。
また、再発、転移乳癌患者に対してのPET/CTによる病状評価としては、Sensitivity 81-93%, Specificity 75-90%となっており、他の検査で確証ができない場合のオプションとして推奨されます。

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局所療法 Local therapy

センチネルリンパ節生検は現在日本でも広く行われるようになっています。同定率>95%、偽陰性率<10%、センチネルリンパ節生検査による転移陰性後の腋窩リンパ節再発<1%、術後リンパ浮腫7%と高い成績を示して、腋窩転移検索手段として推奨されます。現在、センチネルリンパ節生検のトレーニングはアメリカの外科研修プログラムで標準となっています。問題点としてはアメリカ国内および、国外でも施行する土壌が整っていない所が多く残ることです。

術後療法 Adjuvant systemic therapy

ホルモン陽性乳癌に対する術後療法の治療方針決定の一つの手段として、21の遺伝子検査により再発リスクを評価するOncotypeDXが用いられます。臨床試験として、OncotypeDXに基づいたタモキシフェン(NSABP B-14)やタモキシフェン及び化学療法(NSABP B-20)の有用性の検証が行われております。しかし、問題点としては、検証された時期に投与された化学療法が現時点より古い世代の薬剤であるということです。ガイドラインとしてはホルモン陽性乳癌の(     )に対する術後療法の治療方針決定にOncotypeDXは推奨されます(推奨カテゴリー2A*)。Paclitaxelの投与方法に関しては、臨床試験CALGB9741により、3週ごとの投与よりも隔週投与のほうが有効であること、臨床試験E1199により、3週ごとの投与より毎週投与のほうが有意であることが示されています。これらの結果より、アジュバント化学療法から、AC followed by Paclitaxel 3週毎投与が削除されました。新しいアジュバント化学療法として、FEC(fluorouracil, Epirubicin, and cyclophosphamide)Followed by weekly Paclitaxel (毎週投与)が追加されました (MRLA Martin et al: J Natl Cancer Inst 2008; 100: 805-814)。

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転移性乳癌に対する治療 Systemic Therapy for metastatic breast cancer

近年、抗HER2モノクローナル抗体であるTrastuzumabおよび、昨年、日本でも認可されたHER1,HER2阻害剤であるLapatinibの転移性乳癌に対する投与についての評価が行われました。Johnstonらによる閉経後ホルモン陽性転移性乳癌患者に対する初期治療としてのLetrozoleおよびLapatinib併用の効果が報告されています(J Clin Oncol 27, 5538, 2007)。この研究では、HER2陰性患者では有用性は認められませんでした。HER2陽性患者では、無病状進行期間は有意に延長が認められました(ハザード比 0.71, p=0.019)。しかし、全生存期間の延長には寄与しませんでした(ハザード比 0.74, p=0.113)。
TAnDEM studyでは、閉経後ホルモン陽性かつHER2陽性転移性乳癌患者に対する初期治療として、アナストロゾール単独とアナストロゾールとTrastuzumab併用の比較試験が行われました(Kaufman et al. J Clin Oncol 27, 5529, 2009)。結果、併用群で無病状進行期間は有意に延長が認められました(ハザード比 0.63, p=0.0016)。しかし、全生存期間の延長には寄与しませんでした。


これらの結果を考慮した結果、転移性乳癌患者に対する抗HER療法の投与としては、

  • 化学療法とTrastuzumab併用は無病状進行期間および全生存期間を改善させる。
  • 内分泌療法とTrastuzumabまたはLapatinibの併用は無病状進行期間のみを改善させる。
  • Lapatinibはいずれの患者群においても全生存期間の改善に寄与しない。

以上より、NCCNの現時点の見解としては、閉経後ホルモン陽性かつHER2陽性転移性乳癌患者に対するアロマターゼ阻害剤にTrastuzumabまたはLapatinibの追加投与は、限られた研究により、無病状進行期間の延長にのみ有効であることが示されており、生存期間の延長には寄与しないことが示されているということです。


最後にNCCNガイドラインの今後の方向性として、科学的エビデンスを元に評価し改訂を続けていくこと、社会状況などをきちんと考慮しながら、様々な組織と協力し合い、より良いガイドラインを作成するイニシアチブをとってゆくことを挙げていました。

NCCNガイドラインの改定とともに、この総会も毎年行われており、診療に必要な情報を網羅的に扱いながら、現在、臨床でもっとも注目を集めている部分を集ており、非常に有意義な会でした。各癌領域に関わらず、この総会で幾度となく言われていた『ガイドラインはクックブックではない』ということが非常に印象深いものでした。NCCNガイドラインは、アメリカ国内、国外の社会事情や保険事情など考慮すべき点をしっかり踏まえた上で、最新のエビデンスをいち早くガイドラインに取り込み、臨床家や患者に浸透させようという非常に重要な取り組みです。また、この総会には、ナースも数多く参加しており、医師だけでなく、医療従事者へガイドラインを浸透させるための日本での教育の必要性も痛感いたしました。 本会への参加にご協力いただいた聖路加国際病院ブレストセンター長中村清吾先生、JCCNB久保誠子様を始め、事務局の皆様に感謝致します。

NCCN エビデンスおよびコンセンサスに基づくカテゴリー分類
カテゴリー1 : 高レベルのエビデンス(ランダム化比較試験など)に基づく推奨で、NCCN 内のコンセンサスが統一されている。
カテゴリー2A : やや低いレベルのエビデンスに基づく推奨で、NCCN 内のコンセンサスが統一されている。
カテゴリー2B : やや低いレベルのエビデンスに基づく推奨で、NCCN 内のコンセンサスが統一されていない(ただし大きな意見の不一致はない)。
カテゴリー3 : いずれかのレベルのエビデンスに基づく推奨ではあるが、大きな意見の不一致を反映する。
特に指定のない限り推奨事項はすべてカテゴリー2A である。

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